ロココ、モダン、そしてクールの誕生

■ ロココだねェ、パリっ子だってね〜 ロベール・カサドシュの弾くスカルラッティのソナタを聴きながら思わずつぶやく。クリスタルのような音の粒子。その〝ギャラントさ〟の秘密は、緩急ではなく、節度をもってコントロールされた強弱にこそある。K27のロ短…

1946年のモランディ

■ CDをいくらか処分することにし御茶ノ水まで運んでゆき、査定を待つあいだ東京ステーションギャラリーで「ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏」を観てきた。 モランディという名前を知り、その作品に触れたのはいまから26年前のこと。西武デパートが…

円山応挙の『元旦図』

■ 花見と同様、元日の朝の太陽を神聖なものとみなす「初日の出」もまた、日本人の自然観を知るうえで欠かすことのできない風習のひとつなのではないか。■ 円山応挙『元旦図』。府中市美術館の「ファンタスティック〜江戸絵画の夢と空想」に展示されているの…

さまざまの事おもひ出す桜かな

■ また桜の季節がやってきた。この時期になるときまって思い出すのが、「さまざまの事おもひ出す桜かな」という芭蕉の句である。■ 年ごとに多少の違いこそあるものの、桜は、ある決まった時期になると一気に開花し、そして一気に散る。だらだら続かず、花の…

描かれた大正モダン・キッズ

◆ずっと以前から、板橋区立美術館はいい企画展示をやる美術館だった。とくに、〝池袋モンパルナス〟界隈の戦前の洋画家たちの作品の展示にかけては他の追随を許さないといった感がある。まだ学生だったころ、実家が比較的近所だったこともありぼくはここで松…

ドビュッシー『ピアノのための12の練習曲』

◆ドビュッシーの『12の練習曲』を聴いている。いまの耳にも、その音楽はじゅうぶんに前衛的に響く。 ◆ところで、いま聴いても前衛的であると書くとき、ドビュッシーが1915(大正4)年に完成させたこの音楽を、ぼくはバロック〜古典〜ロマン派〜近現代という…

戦時下の音楽

■ ここのところ、ハインリヒ・シュッツの「わがことは神に委ねん」SWV.305を繰り返し聴いている。クラシックはそこそこ聞きかじってきたつもりだったが、まだこんな凄い曲もあったのだ。正直、びっくりしている。 シュッツは、敬愛する師ジョヴァンニ・ガブ…

『少年満州讀本』『ペトロフ事件』『ほんほん蒸気』

■ ここはあくまでも気になったことを書き留めておく場所、まとまったことは書かないという決め事を自分に課していたはずなのに、早くも脱線気味。 ■ 昭和13(1938)年、日本文化協会の委嘱により作家の長與善郎が著した『少年満州讀本』の復刻版を読む。内地…

ラスキン文庫

■ ちょっと前の話になるけれど、世田谷美術館でみた濱谷浩の回顧展でのいちばんの収穫といえば、1930年代の東京を撮った写真のなかに「ラスキン文庫」をみつけたことだった。落ち着いた書斎風の一室にくつろぐ数人の男女。あらためてじっくり確認したいとこ…

アヴェ・ヴェルム・コルプス

■ モーツァルトが、死の年に書いた作品のひとつに「アヴェ・ヴェルム・コルプス」がある。わずか46小節、演奏時間にして4分足らずの合唱曲である。この曲の、もはやこの世のものとは思えない清澄な旋律を耳にするたびぼくは、モーツァルトの魂はこのときすで…

迎賓館、レーモンドと教文館、橋63

■ ほとほと迎賓館には縁がない。抽選には毎度ハズレる、先着順の一般公開と聞き地下鉄に飛び乗れば、すでに午前11時の時点で3,000枚の整理券の配布は終了したという。それでも、お目当ての「噴水池」だけでもゆっくり観られればと思ったら、「噴水池」がある…