さまざまの事おもひ出す桜かな

■ また桜の季節がやってきた。この時期になるときまって思い出すのが、「さまざまの事おもひ出す桜かな」という芭蕉の句である。
■ 年ごとに多少の違いこそあるものの、桜は、ある決まった時期になると一気に開花し、そして一気に散る。だらだら続かず、花の盛りはほんの1週間程度とごく短いが、そこがいい。ほかの多くの花の開花の期間を「線」にたとえるなら、桜のそれは「点」といえるだろう。それゆえ、もし仮に「暦」がなかったとしても、ぼくらはきっと桜の開花によって季節の変わり目を知ることができる。それにくらべたら、ひとが「節目」と考えがちな「正月」や「誕生日」といった行事などは「暦」なしには知りようもないのである。日本の風土に生まれ育った人びとが古来から桜の開花をひとつの「節目」としてかんがえてきたのは、だから当然といえば当然なのである。
■ ここ数年、桜のたよりを聞いて思い出すのは平成23年の春、あの東日本大震災とそれにともなう原発事故が発生した春にみた桜のことである。いつもより心なしか澄み切った、しかしそのじつ放射性物質を含んだ青い空を背景に、それはまるでなにも知らないかのように咲き誇っていた。この先日本は、そして自分の暮らしはどうなってゆくのだろう? そんな不安を抱えながら見上げるこちらの気持ちなど一切おかまいなく、ずいぶんと浮世離れしてみえたものだ。

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