円山応挙の『元旦図』

■ 花見と同様、元日の朝の太陽を神聖なものとみなす「初日の出」もまた、日本人の自然観を知るうえで欠かすことのできない風習のひとつなのではないか。
円山応挙『元旦図』。府中市美術館の「ファンタスティック〜江戸絵画の夢と空想」に展示されているのを観た。
 横長の紙の右下に、裃を着けた男がこちらに背を向けて立っている。左上には、薄墨色の山の稜線からいままさに昇らんとする太陽の一部が朱色で描かれる。男の背後に伸びた長い影が、太陽光の強さを物語っている。描かれているのはそれがすべて。あとは余白だ。ひとり太陽に対峙して、男はいったい何を願っているのか。思わずそんなことまで考えてしまう。
■ それにしても、この構図のなんとモダンなことか。それは、日本画になじみのないぼくが思わず目にとめたほどである。あまりにモダンすぎて、まるで現代のイラストのようにさえみえる。応挙は、こんなふうに紙を横位置に使うことがよくあったのだろうか。
■ そもそも「初日の出」とは、太陽とひとりの人間とのあいだに取りかわされるごくごく個人的な体験である。応挙は、その有り様を、太陽とひとりの正装をした男の姿のみでじつに見事に描き切っている。元日の朝の厳粛な気分に、思わず背筋がシャンと伸びるような作品である。

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